広東省中山市まで鳩を食べに行く

正月に香港にいく機会があり、南粤美食のおやじに「いいところ知らない?」と言ったら、「中山だ、中山に行け!」と強烈におすすめされました。「そんなにふらりといって、美味いものが食えるの?」と聞き返すと、自信満々で「食える!」「鳩と、蛇だ。」こんな機会がなければ訪れることもない場所ですし、幸い中国語には苦労をしないので言ってみることにしました。

「社長、鳩料理やってよ」と聞いたら、「ダメだ、生の鳩が手に入らない。冷凍は不味い」と頑固にお断りされましたが、奥さんのほうは「社長の鳩料理美味しいよ、帰省するとき自分で〆て食べてるよ」ということでお店でも幻のメニューです。

 

広東省の食用バトは、華僑がアメリカから持ち帰ったものと日本から持ち帰ったものを掛け合わせた品種だそうですので、100年ちょっとの歴史があるみたいですね。日本のキジバトって美味しいのかもしれません。

 

中山へは九龍の中港城からターボジェット船が出ています。他にバスという手もあります。国境をこえることになりますが、香港で買った携帯のSIMはそのまま使えるのでFacebookも大丈夫でした。昔、深センで働いていたころに散々乗った記憶があります。保険証入ったバッグおとして大変な思いをしました。あれがあって、中国語をちゃんと覚えようと思った思い出。

90分ほどで中山に到着します。

 

社会主義核心価値観がいたるところに掲げられています。私がいたころから、昔の中国に逆戻りした感じですね。

 

逆に進んでいるのは無人コンビニ。携帯の支払いを使って自分で精算するタイプです。全部個人情報からカメラまであるからとはいえ、こんなセキュリティ対策で大丈夫なの?と思ったら、隣が交番でした。そりゃ万全だわ。

 

やってきました。煲煲掂という名前のローカルなお店です。12時の段階で満席。

 

 

メニューはこちら。売りは鳩と煲仔飯らしいので、シンプルにしました。

 

 

招牌妙齡鴿

当日朝に〆たという名物の鳩。これはいままで食べた中の鳥類で最強でした。香港にいくと好きで何度も食べているのですが、朝じめの鳩は圧倒的なうまさです。噛むと肉汁が溢れ出てきます。手から皿からべとべとになってしまう

古法鹽焗鴿

こちらは塩蒸しと書いてありますが、実際はパリッと揚げ。先程の焼いたほうがうまいですね。

秘制鹵水鴿  こちらは煮たもの。美味しいのですが、やはり最初のが抜群です。

 

もう二匹くらい、最初の特製鳩ローストを行きたかったのですが、我慢して煲仔飯行きました。こちらはアヒルの風肉(干したもの)と鹹魚の釜飯。うまいけれど、鳩があまりにも素晴らしすぎたためパッとしませんでした。

 

猫と戯れたり、中国の地方都市を満喫します。疲れたので晩飯の蛇はやめて香港にもどります。船の時間まで時間つぶしが大変でした。

 

ご無沙汰してます 2018年の旧暦新年会

昨年秋から大きく体調を崩していました。

ヘロヘロではありましたが、毎年のお勤めの龍鳳新年会を開催できたことを嬉しく思います。いまごろアップするのも恥ずかしいのですが、このお店を教えてくれた壺迷さんが一時期更新を止めていたのを思い出して、気力を振り絞って書いています。

 

手作り泡菜 甘酢が上品なスターターです。まずはこれで口の中をリセットします。手間がかかってます。

 

焼肉 カリカリ皮の豚ロースト。数年前から研究を重ねてようやく作れるようになったという一品です。燒臘師や点心師は専門職で、中国にありがちな個人の秘伝なので、大きい店の店主でも作り方を知ることができないとか。でも、これがないと「お祝いが始まらねぇ」(楊さん談)ということでああでもないこうでもないと苦心の作です。

まだ表面の焼き上がりが均質ではないものの、肉にうっすらロゼ色が残る仕上がりがさすがです。まさか伊勢佐木町でこれが出てくるとはだれも想像しないでしょう。

 

吉(ちー)を呼ぶように、鶏(ちー)の料理です。蔵王地鶏の白切鶏です。この骨のあたりにぎりぎり血の赤みが残る絶妙な火の通しが最高です。

 

手作り限定の腸詰め。お土産持って帰りたい!というと「むりむりむりむり!」とお姐さんに本気で断られてしまいました。初一(旧暦元旦)以降は出さないというメニュー、大晦日宴会の我々用に最後に撮っておいてくれたようです。

 

羅漢斎 お正月用精進料理です。精進野菜の旨煮です。この店に通って10年以上、はじめてこの皿が出てきました。

 

龍鳳スペシャリテ ふきのとうの包み揚げ

これが出ないと参加者から苦情が出る、横綱クラスのメニューです。参加者から「なんでこんなにぷりぷりなんですか?」と質問が出たのですが、「満員電車に乗っててひらめいたんですよ、包丁の入れ方にこつがあります」という答え。答えが知りたい人はぜひ季節にお店で注文してください。ことしのふきのとうは少々香りがおだやかで、がつんと春の香りが立つ例年のような味ではなかったのですが、また来年期待します。

 

有頭海老の旨煮?(名前失念) 頭のミソがうまいエビの頭を一番美味しく食べるにはどうしたらよいか考えて作られた一皿です。去年に続き今年も登場。食感の悪いひげや足が取り除かれていて、殻は揚げてあるので頭からバリバリいけます。

 

センマイの炒めもの 超新鮮で、北京で食べたセンマイを思い出す抜群の味で参加者絶賛でした。中には箸が止まらなくなる人も。

豚足の薬膳スープ 京濱華厨会所の賀詞交換会で毎年出されるスープだそうです。毎年スープは出ますが、この二段構えのスープは今年がはじめてのはず。

スープの中には、豚足(猪手)が入っています。横財就手(博打なんかの臨時収入が手に入りますように)と大変縁起のいい料理です。去年は雑所得が一杯あったけど、病気ですっからかんになっちゃったなーと思いつつ戴きました。今年こそガッツリ行きましょう。

年年有餘 年ごとに余裕ができますようにという「余」を「魚」にかけたお約束の一皿です。「ちょうど日本海がシケてて、小さいハタしか手に入らなかったんですよ」と申し訳なさそうな楊さん。いえいえ、こんなに美味しいハタが毎回出てくるなんて夢のようです。中骨のところでほろりと取れて、ぎりぎり血がのこる見事な蒸し加減でした。長年通っていますが、火の通しで一度も外したことがないのが驚きです。

 

大根餅。こちらの大根餅は自家製風肉とピーナッツが入った贅沢版。自分で作るのはとても無理です。風肉も臘腸(ソーセージ)も、台湾から広東にかけてのものは甘すぎて肉の味が飛んでいておいしくない、横浜と四川など冬に凍らない程度に寒いところがベストだと思います。

そして締めはこのお店の数あるスペシャリテでもファンの多い、牡蠣チャーハン。

もちもち系の旨味たっぷりチャーハン(もち米が入っている気がします)の上に大ぶりのまんまる牡蠣がずどんと乗ります。この春節の時期が一番美味しいです。数ある牡蠣料理の中で、これが個人ランキングで今の所不動の一番ですね。

 

最後は、金を模して子孫繁栄の意味を込めた芝麻球。あげ団子です。中華のスイーツは寿命が短く、できてから数分で食べないといけないものが特に美味しいですね。

 

楊さん、ありがとうございました!来年もよろしくお願いします。

 

 

 

古典お祝い廣東料理 大珍楼

 

大珍楼で古典お祝い料理の宴会を行いました。もとはといえば、黄色いお店お某最速シェフがパリの下町中華で「この仔豚の丸焼き、どうですか?」とおっしゃるので、正直に肉質は素晴らしいが皮の焼きの技術がもう一歩でサクサク感が出せてない、ならば横浜で抜群の腕利きがいるのでやってみましょうかということになりました。

本来はテラスで焼く予定が、残念ながら季節外れの台風で厨房焼きになりました。厨房見学をしてから宴会スタートです。

 

片皮乳豬體

見事な焼き上がりです。大珍楼の焼物師の腕前は、あちこち高級店を食べている人に言わせても日本一だとか。

お値段は1台8万円からになります。12人で食べてちょうどいいサイズです。仕込みには一日かかるということです。大珍楼でも年間1−2回しか注文が入らないのに、厨房には立派な専用設備があるんですよ。

 

 

パリパリの皮と程よい皮下脂肪が美しく仕上がってます。一瞬で終了です。

 

表面に、芥子の実のような細かいつぶつぶが浮かび上がっているのが最高の焼きあがり具合を表しています。歯を立てると少し抵抗してからサクッと歯が入る食感が最高です。1枚しかないのが辛い。

 

杞准燉水魚

二品目は伝統のメニュー組み立てに従い、スープです。水魚のスープなのですが、魚ではありません。廣東では水魚はすっぽんの意味です。龍眼や漢方材料、金華ハムなどが入っていて体がすぐに温まります。雑味は微塵も感じない仕上げがさすがです。コラーゲンいっぱいで女性に好評でした。

 

玉環瑤柱甫 大根の貝柱射込み旨煮 日本人からするとイマイチテンションのあがらない大根という食材ですが、わかってる人からみるとお金を表すデザインになっていて、テンションがあがります。さすが古典料理を知り尽くした大珍楼という一皿でした。この旨煮のソースが素晴らしく深みのある味でした。

 

富貴乳豬件

仔豚の丸焼き二皿目。こちらは肉もいっしょに戴きます。肉がジューシーでうまみたっぷり、蛋白なはずの仔豚の肉がものすごい美味しい一皿です。

 

百花竹笙巻

これもお祝いには欠かせないキヌガサタケの料理。中に入っているのは蝦でした。高級になるとツバメの巣なのですが、蝦や蟹のほうが美味いんじゃないかと思います。

 

 

生菜乳豬崧 

仔豚の丸焼き三皿目は、そぼろにした仔豚の肉をレタスに巻いて食べます。シャキシャキした食感はクワイだと思います。仔豚の丸焼きの肉は味がほとんどしない的なイメージがありますが、今回はしっかり味わいがある肉の上に味付けが下品になるギリギリまで攻めていて、過去最高の仕上がりでした。

 

生猛酔翁蝦 上湯米粉

酔っぱらい蝦です。いまどき見ませんね。30年位前は高級店では必ずあったメニューです。酔っ払ってくると蝦が物凄い勢いで跳ねるなかなか残酷な料理です。良いエビは変に手をかけずそのまま食べるのが一番贅沢だということがわかります。上湯で茹でるのですが、そのスープには米粉を入れて2回めのスープとして供されます。丸鶏金華ハムほか高級食材が放り込まれているので素晴らしい味です。

一つ不満は、おかわりができなかったことです。そのくらい素晴らしかった。

 

叉焼 脆皮燒肉

お土産に叉焼の希望があったので、お店の人が他の人にも味見をと出していただきました。これが大ヒットでした。大珍に腕利きの焼物師がもどってきたというので、焼き物宴会をやろうかと企画したこともあったのですが、今回ようやくありつけました。

叉焼は肉の中まで麹の甘みが染み渡っていて繊維に絡みついている感じです。

皮付き焼肉にはやられました。むらなく見事に焼きあがっています。ピンクのうっすら残るこの焼き加減は、コタキナバルの街の名店で食べて以来です。あそこが世界一かと思っていましたが、大珍樓のものも同レベルでした。焼き立てをそのまま厨房から持ってくる宴会をやったら、どんな素晴らしい一皿になるでしょうか。

 

藩茄炒飯

今回、一番ハイリスクな一皿がでてきました。トマトケチャップ炒飯です。赤いものでしめるあたりが香港らしさそのものです。縁起物なので美食の類ではないのですが、すごく真面目につくってあって、味は美味しい洋食屋さんのケチャップライスのそれです。いまどき高級店では出てきません。まさに古典料理。

 

参加者に本物のパティシエがいるのでデザートもドキドキしていましたが、デザートもやってくれました。ココナッツぎゅうひと、マカオ風エッグタルトです。

基本的に他の人がつくった甘いものは食べない御方ですが、古典料理というテーマなので笑って食べてもらえました。

 

昔のグルメたちが食べていた正統派広東料理ですが、いまの日本ではこういう流行らなくなった料理は一生食べる機会がないと思います。原典を知るおもしろい食事会になりました。