私もがむしゃらに働くことは少なくなり、その代わりどうにもならない心労と悩みの受け口になることが多くなりました。父は家でくだを巻く方でしたが、私は家庭にストレスを持ち帰らないことにしています。子供時代はあまり幸せではありませんでした。
この歳になると、居酒屋の良さが身に沁みます。滞在時間は30分を超えてはいけません。一人で自分の内面に向き合い、垢落としをする、そんなのが居酒屋であると思うのです。
子供の頃から遊んでいた自由が丘でしたが、この店を知ったのはつい最近です。昔の白黒映画に出てきそうな佇まい、私もオヤジが行く店だと思っていたのですが自分も似合うではないかと思います。
頼むものはビールの小瓶と、一通りで注文できる四本セット。かしら、ひれ、きも、からくり焼きという身の部分。居酒屋なのでレベルは高いとは言えませんがいい味わいです。うなぎを食べたいと思ってもなかなか手が出ませんが、これなら普通の焼き鳥屋の気分です。
なにより味わい深いのはその店内。昔ながらのカウンターに大お姐さんが機敏に走り回り、ビールは氷水で冷やしています。適温で出てくるビールは少し飲むだけで満足できます。年季の入った壁の風情など映画の中に入り込むような、そんな気分です。
軽く酔いしれ夜風に当たると、さあもうひと頑張りするかという気力が出てきます。帰り道の茶屋、ともいうべきオヤジの聖地ですが、案外若い女性も愉しんでますね。